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先に結論をお伝えします。
- 残債が売却額を上回る「オーバーローン」でも、家が売れないわけではありません。売れないのは「自分だけの判断では売れない」という意味です
- 理由は抵当権の仕組みにあります。抵当権は債権の全部の弁済を受けるまで残るため、全額を返せないときは債権者が抵当権の抹消に同意するかどうかが条件になります。これが任意売却です
- そして同意の前に、債権者は売出価格を確認します。先に売り出してから相談するのは順番が逆で、時間を失います
- 今週やることは1つだけ。①残債②売却額の目安③諸費用の3つの数字を確定することです。この3つが揃わないと、誰に相談しても方針が決まりません
「残債のほうが多いから、売ってもローンが消えない。だから売れない」。これはよくある誤解です。たしかに売っただけで債務が消えることはありませんが、売れないのと、売っても残債が残るのは別の話です。
この記事では、何が起きているのかを条文までさかのぼって整理し、金額の確定方法、費用の内訳、手続きの順番、残り時間の目安を順に示します。滞納から競売までの全体像は柱記事「住宅ローンを滞納するとどうなる?」に月数つきでまとめています。
「売れない」の正体──抵当権は全額の弁済まで残る
住宅ローンを組むとき、家には抵当権が設定されています。抵当権者は、担保に供された不動産について他の債権者に先立って弁済を受ける権利を持ちます(民法第369条)。
ここで重要なのが抵当権の不可分性です。民法は留置権について「債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる」と定め(第296条)、この規定を抵当権に準用しています(第372条)。つまり残債が1円でも残っていれば、抵当権は法律上は消えません。
買主の側から見ると、抵当権が付いたままの家は買えません。買った後に担保権が実行されれば、家を失うからです。だから決済と同時に抹消登記をする必要があり、そのために全額の弁済が本来の条件になる──これが「オーバーローンだと売れない」と言われる理由の中身です。
逆に言えば、債権者が「不足があっても抹消に応じる」と判断すれば売れます。法律上の義務ではなく、債権者の判断です。競売より高く回収できるなら債権者にも利益があるため、応じられる場合があります。これが任意売却の仕組みです。債務そのものを整理する手続きとは別のもので、債務の整理は弁護士・司法書士が扱う分野です。
最初にやるのは「3つの数字」を確定すること
選べる道は、不足額がいくらかで変わります。まず数字を揃えてください。入手先まで含めて整理します。
| 確定する数字 | どこで分かるか | 注意点 |
|---|---|---|
| ① 残債 元金+利息+遅延損害金 |
返済予定表、残高証明書、届いた通知書の請求額。代位弁済後は保証会社からの請求額 | 遅延損害金は日数で増えます。「今日時点の額」で押さえること |
| ② 売却額の目安 | 不動産会社の査定。無料で、数日で出ます | 最終的な売出価格は債権者の確認を受けて決まります |
| ③ 諸費用 | 仲介手数料・印紙税・抹消登記費用など(次章で内訳) | 売却代金から控除できる場合があります |
| 不足額 | ① + ③ − ② | この額が、売却後に残る債務のおおよその大きさです |
モデルケース(実在の案件ではありません)
残債 2,800万円/査定額 2,300万円/諸費用 約90万円
→ 不足額は 約590万円
この590万円が、売却後に無担保の債務として残る見込み額です。金額が分かれば、相談するときに伝えるべきことが具体的になります。
費用の内訳──手元資金がゼロでも成立しうる理由
「売るお金がない」という不安は多く聞きます。内訳と、誰が負担するのかを分けて見てください。
仲介手数料(上限は法律で決まっています)
宅地建物取引業者が受け取れる報酬の額は国土交通大臣が定めるところによるとされ、その額を超えて受け取ってはならないと定められています(宅地建物取引業法第46条)。売買の媒介の上限は、国土交通省の資料によれば消費税込みで200万円以下は5.5%、200万円超400万円以下は4.4%、400万円超は3.3%です(段階的に計算するため、400万円超の部分は「売買価格×3.3%+6.6万円」で同額になります)。なお2024年7月1日施行の改正で、価格800万円以下の低廉な空家等については税込33万円を上限とする特例が設けられています。
印紙税
売買契約書に貼る印紙です。軽減措置により、記載金額が500万円超1,000万円以下は5千円、1,000万円超5,000万円以下は1万円、5,000万円超1億円以下は3万円とされています(国税庁タックスアンサーNo.7108。軽減の適用期限は令和9年3月31日までに作成される契約書)。
抵当権抹消の登記費用
登記の抹消にかかる登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一)。土地1筆と建物1棟なら2,000円。同一の申請書で20個を超える不動産の抹消を受ける場合は申請件数1件につき2万円とされています。申請の様式や記載例は法務局のページで公開されています。司法書士に依頼する場合の報酬は別途かかり、金額は事務所によって異なります。
誰が立て替えるのか
ここが実務上の分かれ目です。住宅金融支援機構の案内では、同機構の任意売却の手続に協力する場合、状況により売却代金から不動産仲介手数料や抹消登記費用等を控除できる場合があるとされ、残債務の状況等により延滞損害金の減額の相談に応じられる場合があるとも記載されています。つまり手元に現金がないことが、ただちに売却をあきらめる理由にはなりません。ただし条件は債権者ごとに異なるため、届いた通知書の連絡先で確認してください。
なお、これらと別に「任意売却コンサルティング料」などの名目で費用を請求する事業者がいます。費用の名目は必ず確認してください。仲介手数料には上限があり、直接買取なら仲介手数料そのものが発生しない、という仕組みを知っていれば判断できます。この点は柱記事「住宅ローンを滞納するとどうなる?」でも整理しています。
手続きの順番と残り時間の目安──債権者の価格確認が先に来る
住宅金融支援機構は任意売却の手続の流れを公開しています。申出書の提出 → 物件調査・価格査定 → 売出価格の確認 → 媒介契約の締結 → 販売活動 → 抵当権抹消の審査 → 売買契約の締結 → 代金決済・抵当権抹消の順です。そして同機構は、機構の確認を受けていない価格での売却活動では抵当権抹消に応じられない場合があると明記しています。
この順番が残り時間に直結します。売り出すまでに債権者の確認という工程が1つ挟まるため、先に広告を出してから相談すると価格をやり直すことになりかねません。
一方で、競売の側の期限は動きません。入札があった後に競売の申立てを取り下げるには、入札した人の同意を得なければならないと定められており(民事執行法第76条第1項、担保不動産競売には第188条で準用)、実務上は開札期日の前日が事実上の区切りになります。裁判所の案内によれば入札期間は通常8日間程度で、開札後は売却許可決定を経て、代金納付期限は売却許可決定確定の日から約1か月以内が指定されます。
自分の位置は、届いている書面で分かります(「催告書と督促状の違い」、「代位弁済通知が届いたら?」)。販売活動の期間が確保できないほど残り時間が短い場合は、買主を探す活動が不要な方法(不動産会社による直接買取)も含めて比較することになります。
売れたあとに残る債務・信用情報・税金
売却が成立すると抵当権は抹消されますが、不足額は無担保の債務として残ります。すでに期限の利益を失っている場合、請求は一括のままです。分割の協議に応じるかは債権者の判断で、前述のとおり延滞損害金の減額について相談に応じられる場合があります。
残債の減額や免除、返済条件の変更の交渉、自己破産・個人再生といった手続きは、弁護士・司法書士の業務です。不動産会社が代理することはできません。収入や資産が一定の基準以下であれば、法テラスの民事法律扶助で無料の法律相談を利用できる場合があります。
信用情報について。CICは、クレジット情報の保有期間を契約期間中および契約終了後5年間としています(CIC「CICが保有する信用情報」)。JICCは、契約日が2019年10月1日以降の場合、契約内容・返済状況・取引事実に関する情報の登録期間を契約継続中および契約終了後5年以内としています(JICC「信用情報の内容と登録期間」)。自分の登録内容は、各機関への開示請求で確認できます。
税金には誤解があります。オーバーローンかどうかと、譲渡所得が出るかどうかは別の問題です。譲渡所得は売却額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算するため、残債より安く売れても、取得費が低ければ譲渡益が出ることがあります。居住用財産には3,000万円の特別控除がありますが、適用を受けるには確定申告が必要です(国税庁タックスアンサーNo.3302)。該当しそうな場合は税務署か税理士に確認してください。
つまずきやすい5つの点
- 共有名義だと自分だけでは売れない。民法は、各共有者は他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えることができないと定めています(民法第251条)。元配偶者が共有者のままになっている、連絡が取れない、といった状態は時間を大きく食います
- 担保権者が1社ではない。2番抵当、リフォームローン、不動産を担保にした借入れがあると、すべての担保権者の同意が必要になります。順位が後の債権者は回収額が小さいため、同意に時間がかかることがあります
- 税金の滞納による差押えが入っている。固定資産税や所得税の滞納で差押えの登記があると、その解除のために市区町村や税務署との調整が別に必要になります
- 残債は待っていても減らない。遅延損害金は日数で増えるため、先延ばしがそのまま不足額の増加になります
- 価格の合意より先に契約を急がせる相手に注意。債権者の価格確認が前提である以上、順番が合いません
相談先の切り分けと、今日できること
借金・残債の問題 → 弁護士・司法書士
残債の減額、返済条件の交渉、債務整理の検討。これらは弁護士・司法書士の業務です。費用が心配な場合は法テラスの民事法律扶助の対象になるかを確認してください。
家の売却 → 宅地建物取引業者(不動産会社)
査定、債権者への申出と価格確認の段取り、販売活動。任意売却の取扱い実績がある会社に相談してください。
譲渡所得・確定申告 → 税務署・税理士
このサイトでは、個別の売却のご相談はお受けしていません。家の売却は任意売却を扱う不動産会社に、借金そのものについては弁護士・司法書士にご相談ください。
- 残高証明書か返済予定表を探して、今日時点の残債を書き出す。見つからなければ債権者に発行を依頼してください
- 査定を依頼して、売却額の目安をつかむ。無料で、数日で出ます
- ①+諸費用−②を計算して、不足額を1枚の紙に書く。弁護士・司法書士にも不動産会社にも共通で使える資料になります
- 登記事項証明書で担保権と差押えの有無を確認する。同意を得る相手が何社いるかが分かります
不足額が分からないまま時間が過ぎるのが、いちばん損の大きい状態です。
よくある質問
Q. オーバーローンでも任意売却はできますか?
残債が売却額を上回っていても任意売却ができないわけではありません。むしろ任意売却は、全額の弁済に届かない前提で債権者の同意を得て売る方法です。ただし同意するかどうかは債権者の判断であり、売出価格の確認を経る必要があります。
Q. 不足額を一括で払えません。それでも売れますか?
売却そのものができなくなるわけではありません。不足分は無担保の債務として残り、その後の返済方法は債権者との協議によります。協議や減額の交渉は弁護士・司法書士に依頼する内容です。先に金額を確定し、相談の材料を作ってください。
Q. 売却の諸費用を自分で用意できません。
住宅金融支援機構の案内では、手続に協力する場合に売却代金から仲介手数料や抹消登記費用等を控除できる場合があるとされています。民間の金融機関・保証会社の運用は債権者ごとに異なるため、届いた通知書の連絡先で確認してください。
Q. 残債より安く売ると、税金はかからないのですか?
残債の額と譲渡所得の有無は別の問題です。譲渡所得は売却額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算するため、残債を下回る価格でも譲渡益が出る場合があります。
Q. 競売の通知が来てからでは、もう手遅れですか?
入札があった後の取下げには入札した人の同意が必要になるため、実務上は開札期日の前日が区切りになります。ただし債権者の価格確認と販売活動の期間が必要なので、残り時間が短いほど選べる方法は絞られます。
この記事について:滞納の味方 編集部(城久株式会社/宅地建物取引業 東京都知事(1)第114307号)が作成しています。
債務整理・債権者との交渉は弁護士・司法書士にご相談ください。 最終更新日:2026年10月10日
